多和田秀弥インタビュー/ぼくらが非情の大河をくだる時-新宿薔薇戦争-|Theater letter 11
2017.3.12
Theater letter──不定期連載でお届けする、好きなものだけ集めた、舞台からの手紙。
先日、大好評の内に幕を閉じた『熱海殺人事件 NEW GENERATION』で熊田留吉刑事役を熱演した、多和田秀弥さんが登場!
取材が行われたのは、公演真っ最中のある日。場所は折しも作中に登場する、ルノアール!? 出演中の『熱海』について、今の自分について、これからのこと……たくさん語っていただきました。
ここまでやってしまえる、自分に出会えました
──『熱海殺人事件 NEW GENERATION』の幕が開きました。出演のお話があったときの感想を伺います。
多和田:ついにきた……という感じでした。もともとミュージカル『テニスの王子様』を卒業してすぐの2015年に、gmk produce『新・幕末純情伝』に出演させていただき、つかこうへいさんの作品に初めて触れましたが、自分のなかでは昇華しきれてなくて、悔しい思いがいっぱいあったんです。
それが今回、新しい事務所に移ったこのタイミングで、それも紀伊國屋ホールで「つかこうへい復活祭」としての『熱海殺人事件』に出演できることは大きいことでした。ただ、やっぱり演目が演目で、物語を動かすキャストが4人で、しかも紀伊国屋ホールと聞いて、大丈夫かな、という思いはありました。
──そこで、一つ、お伺いしたいのですが。多和田さんを始めとする若い世代の俳優にとって、つかこうへい作品に出演する、紀伊国屋ホールといった老舗劇場に立つ、といったことへの憧れ、みたいなものはあるのでしょうか……というか、失礼ながら、そもそもご存知でしたか?
多和田:多分、舞台に関してまだまだ知識が浅い僕でも知っている存在です。出演が決まったときに、同世代の人たちからも「いいなあ、出たいな」と言われたし。正直に言ってしまえば、当時のことはわかりませんが、歴史がある作品で、この劇場で上演されることに意味があり、そこに立つ、という醍醐味があることはわかります。
──そこを踏まえて、今回は「NEW GENERATION」と銘打ったとおり、キャストもですが観客も若い世代の方々が足を運んでいると感じています。
多和田:それはとてもうれしいことで、僕らが演じることで初めて知ったたくさんのことを、お客さんにも感じてもらえたらうれしいです。
最初はすごく不安もあったんです。熱海を知らない世代の役者が熱海を演る、それが、これまで熱海を観てきた人たちにどう映るのか……と。それは、つか作品を支え続けて、演出も手がけている岡村俊一さんもおっしゃっていて、熱海を知らない世代が演ることに意味がある、と。で、実際、幕が開いてみれば、僕らと同じ熱海をまったく知らない世代の方も、以前から観ている方も、女性も男性も、すごく幅広く足を運んでくださっている。そんな経験ができる舞台は初めてなんです。だから、すごく今、愉しいです。シンプルに。
──すてきです。
多和田:つかさんというと名前はみんな知っていて、台詞が大変、みたいなイメージがあると思っていて……で、実際にそうなんですが、そういったセリフ量や体力的なことはもちろん、いろんな経験の幅が得られる舞台だと感じています。
たとえば、これは岡村さんがよくおっしゃることなんですが「全然、別のことを考えながら台詞が言えるくらいになったほうがいい」と。ご飯をガーッと食べながら、台詞が空で言えるとか、それくらい身体に台詞を落とし込んで、全然別の動きをしながら台詞を言う、といった経験を実体験として毎日、やれていることがすごく大きくて。
──とても貴重な経験をされています。舞台といえば、昨年7月、舞台『ソラオの世界』で初主演を務めました。
多和田:あのときは……初めての西田シャトナーさんの演出で、楽しかったししんどかったしやりきった感がすごかったんですが……実は記憶があまりなくて……(笑)。とにかく大変でした。観に来てくれた人も、みんな「よくやったなあ」と褒めてくれて。
横幅があるステージなので、左右の動きも大きくて、さらにセットに登ったり降りたりで……僕、シャトナーさんに「どこかで、水、飲ませてください」って珍しくお願いしましたもん(笑)。
──物理的な運動量もですが、己の脳内をさまようといった物語だったので、たった独りで舞台上の空間を支える場面も多く。
多和田:はい。だからいろいろな意味でキツかったですね。あんなに終わってすぐに家に帰りたい! って思った舞台も珍しいです。ただ、そこまで自分を追い込んだ経験はなかなかできないことだったので、立ててよかったと思っています。
──前後しますが2015年から一年間、出演した『手裏剣戦隊ニンニンジャー』のスターニンジャーことキンジ・タキガワでは映像作品を経験され、シアターGロッソでといったショーやイベントでも徹底的に役をまっとうされていました。
多和田:あれはもう、絶対に役を崩さなかったですね。ヒーローということを常に意識して、キンジとしてお客様の前に…特にちびっ子たちの前に立っている、ということを心がけた貴重な時間でした。
──そうした経験を得た多和田さん、岡村さん演出の『新・幕末純情伝』の桂小五郎を演じ異彩を放った味方良介さん、ミュージカル『刀剣乱舞』で天下五剣と讃えられる三日月宗近に挑んだ黒羽麻璃央さんが、新たな『熱海殺人事件』に挑むのが愉快です。三人を、たとえば「テニミュ出身」の「イケメン俳優」と紹介するのはわかりやすいことですが……それはとても表層的なことで。
多和田:でも、それはもう、武器にしよう、と三人で話してました。共通点としてのミュージカル『テニスの王子様』でキラキラした役を観てくれていた方々にも喜んでもらえたらうれしいし、さらにそこから地べたに這いつくばるような別の自分たちを観てもらえることは大きいよね、と。
実際、舞台に立ってみて、僕らの世代が立つ意味というのは感じました。新たな熱海殺人事件だと言ってくれる方も、初めて知ってくれた方もいて、そういう意味では、僕らがつかこうへいさんや岡村俊一さんの思いを次世代に継ぐことができたんじゃないか、と感じています。自分の役に対して新たな設定を持ち込むことも初めてで、作中に登場する「壁ドン」も、稽古場で生まれた自分発なんです。
──ご自分で?
多和田:はい。とんでもない捜査方法を繰り広げる熊田刑事なので、なんでも盛り込もうと思って、どんどん作っていったら、ある日「熊田にピンスポットが当たりすぎてない?」というクレーム(?)が共演者から入りました(笑)。でも、気にしません! キラキラした姿もどん底から這い上がる姿も全部、見せたい。
──確かにド派手な木村伝兵衛部長刑事と拮抗する、熊田のはらむ狂気、みたいなものは、失礼ながら多和田さんの内包する、実はヘンな人……な空気に近い印象があり……。
多和田:ははは(笑)、今回、炸裂させています。スキあらば、誰よりも観客の目線を奪ってやろうと思っているし、「ここまでやれる」、「やってしまえる自分に出会えた」というか……実際、舞台上で、お客さまが、あっけにとられていて、あ、今、置き去りにしているな、っていうのもたまにわかるんです。でも、それすらもおもしろがって、突き抜けていくのもおもしろい! みたいな感じもあって。だからこそ、毎公演、全力で身を削って「ここまでやってるんだ!」という実感もあるので、本当に「観てください」という言葉しかありません。
あと、全員で『渚のシンドバッド』を踊るときに、水野朋子婦人警官役の文音さんと僕だけ、サビでのターン、二回りしてます(笑)。みんなに「疲れるじゃん!」って稽古中から言われてましたが、これはもう、なんか意地で、こだわりで、ところどころ誰にも言ってないけど、やってやろう、と思ってるところがいろいろあります。
──では、改めて伺いますが、最初につか作品に挑んだときのリベンジ、みたいなものは……。
多和田:自分の気持ちの中では果たせていると思います。もちろん、まだまだ足りないところはあるし、もっとこうしたいといった部分はあるんですが。今回は稽古場から楽しくて、幕が開いてからも、毎日、楽しめているので、そこは手応えを感じています。
でも、もっともっと奥があるということはわかっているので、そこは日々追いかけていて、それすらも丸ごと楽しめていることは大きいですね。
──DVDも発売されず、記憶にしか残せないのが刹那的で愛おしいです。
多和田:そうなんですよね。映像にならない、っていうのが大きくて、それがないから好き勝手にやれるし、時事ネタもぶっこめる。今、すごくいい時間を過ごさせてもらっているし、充実しています。だからこそ、この舞台を観てくれた方々の間に、あの熱海、すごかった……という伝説だけが次世代につながればいいな、と思っています。
──その言葉はうれしいです。そして、戯曲はこうして生きながらえると実感しています。
今年はより貪欲に自由な、多和田秀弥を届けます
──冒頭でもお話がでましたが、昨年末、事務所を移られました。
多和田:前の事務所と今の事務所の間で、僕のこれからをとても真摯に考えてくださって今回の移籍に繋がったんですけど、もちろん僕自身ともすごく誠実に向き合っていただいた結果で。ファンの皆さんを心配させてしまったと思うんですけど、実際とてもポジティブな移籍だったので、舞台でしっかり芝居を届けることで、安心してもらえたらなって思っていました。前の事務所の皆さんからも「互いにいい結果を出せるように頑張ろうね」と温かく送り出していただいたんです。だからその第一歩として『熱海殺人事件』のような名作で舞台に立たせていただけることが恵まれているなと思ったし、より気を引き締めて芝居に取り組めています。
──そして、3月16日(木)からリーディングドラマが幕を開けます。
多和田:これも、恐くもあり楽しみな舞台です。つかさんが『熱海殺人事件』で第18回岸田戯曲賞を取られた1974年に、やはり戯曲家の清水邦夫さんが同時受賞された『ぼくらが非情の大河をくだる時-新宿薔薇戦争-』のリーディングドラマです。しかも下北沢の本多劇場なんです……紀伊國屋ホールに続き本多劇場、しかも同時受賞の両作品にこの短期間で続けて出演できることに、なにか縁を感じています。それに、テニミュの最後の公演を戦った部長同士である、かみちゃん(神永圭佑さん)とダブルキャストで全く違うジャンルの作品にチャレンジできることも、なんだかすごく感慨深いです。
──戯曲は、真夜中に男が男を求めて集う薄汚れた都内の公衆便所から幕を開け、題材が「連合赤軍事件」といった若者たちの無軌道さを色濃く写した、なかなかに衝撃的、かつ混沌とした物語です。
多和田:『熱海殺人事件』同様、まったく知らない時代の話で、読んでいてもわからない単語がたくさんありました。正直言って、なんじゃこりゃ? みたいな感じです……。でも、そんな新たな扉が開けそうな内容の作品なことも、ずっと、演出していただきたいと思っていた中屋敷法仁さんとご一緒できることもうれしくて。
たぶん、地獄絵図なすさまじい世界が繰り広げられることは今からわかっているけど(笑)、僕が初めて中屋敷さん主宰の「柿喰う客」の舞台を観た時のように、きっと内容はディープでも衝撃的で心の奥底をぐっと捕まれる作品になると思うので、ここでも死ぬほどあがきたいと思います。昨年末にトニー賞受賞作の舞台「テイク・ミー・アウト」でニナガワ・スタジオ出身の藤田俊太郎さんに演出していただき、『熱海殺人事件NEW GENERATION』があって、このリーディングと、立て続けに僕にとってチャレンジングな作品に今このタイミングで出会わせていただけていることに感謝しています。
──新たなことに挑戦されています。そのなかのひとつにファンサイトの始動、4月にはファンイベント開催も控えています。
多和田:もともとの事務所でも応援してくださる方に向けてのサイトがあったので、今回も特別な気持ちはあまりなくて、むしろ変わらず応援してくださる方々に向けて、変わらず自分の思いを届けることを続けたいです。
ただ、イベント自体は2015年に単独で一度やらせていただいた以来なので、今、いろいろなことを考えています。タイトルが『弥会(やかい)』というんですが、これは同じ事務所所属の小松準弥と僕の多和田秀弥の「弥」の字が一緒ということで、マネージャーさんが考えてくれました。なので、僕だけでなく小松を応援してくれる方々にもうんと楽しんでいただきたいし、ダンスとかいろいろとやりたいことも考えているので、きっと満足してもらえるような内容にします。
──改めて、意気込みを伺います。
多和田:久々に応援してくださる方と直接、お会いできる機会なのがうれしいです。小松も僕も、ふだんはいろいろな場所で、役者として演じる姿を見ていただいていますが、それとはちがう、個の部分を見てほしいし、僕らの原点を届ける場所になってほしいです。
だからこそ大成功させたいし、来てよかったな、と思ってもらえる内容にしたい。リーディングドラマを観てくださった方々には、とんでもなくしんどい姿を見せたその後に、イベントで「わあああー!」って、思いっきり弾けてる姿との落差に驚いてほしいです。たとえるなら、ジェットコースターみたいな感じで、僕をおもしろがってほしいし、おもしろがらせます。
──最後に、2017年はどんな年にしたいでしょう。
多和田:いろいろなことを貪欲に自由にやっていきたいです。その第一弾が『熱海殺人事件』であり、『ぼくらが非情の大河をくだる時-新宿薔薇戦争-』です。
今、ほかにも、やっていきたいことをマネージャーさんに伝えていて、いい意味で欲深くなりたいです。でも、たまに、「それは欲ではなく、単なる我儘です」って言われてますけど(笑)。でも、いろんな多和田秀弥を届けたいと思っています。見ていてくださる方々を退屈させないつもりだし、僕自身も新たな自分を発見していきたいし、それがより広がっていくことを目指します。
取材・撮影/おーちようこ
多和田秀弥(たわだ・ひでや)
1993年11月5日、大阪府生まれのA型。取材時23歳。
事務所プロフィール http://g–v.jp/profile_tawadahideya.html
オフィシャルファンサイト https://gv-actors.com/
オフィシャルTwitter @hideyatawada
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ぼくらが非情の大河をくだる時-新宿薔薇戦争- http://bokuraga.com/
中屋敷リーディングドラマ
本多劇場(東京都)
2017/03/16 (木) ~ 2017/03/20 (月)