自ら臨んだ『アラタ〜ALATA〜』に立つ/小松準弥インタビュー

Theater letter──不定期連載でお届けする、好きなものだけ集めた、舞台からの手紙。

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 ダンスだけでなく殺陣や演劇を交えたノンバーバル(非言語)で物語を表現する──斬新な試みを思いっきり詰め込み、今年7月7日に開幕した『アラタ〜ALATA〜』に、ひとりの「アラタ」が誕生した。

 スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』などを手がける横内謙介を脚本に、演出にはつかこうへい作品をはじめ多くの舞台を手がけるプロデューサーで演出家の岡村俊一を迎え、音楽に全世界で2,000万以上DLされている音楽ゲームアプリ「Deemo」で知られるMili、ダンスクリエイターに第一線で活躍するストリートダンサーのElinaを招いたこの作品。

 しかし、なんといっても注目は、サムライアクション・ディレクターに早乙女友貴を迎えての、ド派手な殺陣だ。「過去、現在と移り変わる場面に合わせて、動きも変えた」というこだわりから、その手数は千を超えたという。早乙女自らも主役・アラタを演じた世界に、新たに挑んだのは若き俳優、小松準弥──しかも、自ら、「立ちたい」と頼み込んだというから驚きだ。

 デビュー公演となった11月18日、19日の出演を終えた夜、自身が叩き出した結果を認められ、続投が発表。そこにたどり着くまでの、自身の思いを伺った。

 

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10日間、20時間で千手の殺陣を覚える、ことの意味

 

──まずは二日間、無事の公演終了と続投発表、おめでとうございます。
小松:無事、終えることはできたのは周りの方々のおかげです。

──通し稽古にも伺いましたが、ひとつひとつの場面でとても細かく演出が成されていて驚きました。
小松:たとえば「刃先が相手の方をきちんと向いていない」、「もっと深く斬り込まないと、斬ったように見えない」、「間延びするので、刀を振るう間にもうひとつ、動きを入れてほしい」といった指示に加え、音のきっかけ、光のきっかけで決まった場所へと動くことも求められていて、正にノンバーバル(非言語)で身体で伝える舞台だと感じました。
 正直言って……大変でした。出演が決まってから、いただいた稽古期間が10日間、20時間という限られた、決して長くはない時間だったからです。
 なので、まず最初の三日間で全体の動きを覚えようと決めて、アラタとしても出演されている塚田知紀さんに殺陣を付けていただきました。でも、全然、早く動けなくて、すごくゆっくりにしかできなくて。その動画を撮っていただき家で確認したんですが、手数が千くらいあったので混乱しちゃって整理が付けられなくなってしまって。だから個人的にスタジオを借りて、そこでひとつひとつ確認して、大きな枠を覚えました。

──千手もの手数を3日で……大変なことです。
小松:必死でした。初日から百公演以上を経験されている方々を前に、アラタとして立たせていただくわけで、ただでさえ歴然とした差があるので、やるしかなかったんです。
 それから荒通しを三回ほどやらせていただいて。でも、その時はもう少し細かく、ここのサス(照明の位置)に入ることができていない、といったことが自分でわかったんですね。だから、それも動画を撮っていただきノートにまとめて持って帰って確認して、動けるようにしていきました。

──ひとつの課題に対し、こういった段階で進めていけばいい、といった組み立てが見えて、実践できる、そのことがすごいです。
小松:……できているんでしょうか……もし、今、それができているのだとしたら、これまでにいろいろな経験させていただいたからだと思います。

──殺陣の経験は?
小松:今年6月の舞台「黒雲峠」で殺陣の芝居を初めて学びました。

──それまでにも「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」(あんステ)をはじめ、いろいろな舞台に立たれています。
小松:あれ? 「あんステ」って昨年からでしたっけ?

──はい。2016年の6月の公演です。
小松:そうか……! まだ、一年前なんですね……。そう考えると、この一年で改めてすごくいろいろな経験をさせていただいています……その結果が出ているのであれば、うれしいです。

──実際に初日を迎えていかがでしょう。
小松:緊張はしましたが、楽しみでもありました。当日は舞台袖でいろいろ確認しよう、と思っていたんです……でも「やめた!」と。「もう、このまま行こう!」と決めて、出ました。

──潔いです。
小松:むしろ、確認しすぎると自分で不安になっちゃうんです。なにより、やれることは全部やったので「俺はここまでやってきた! もう、それを観てくれえええ!!!」と、勢いで行きました……だって、それだけやってきたと思えたから。
 カーテンコールがすごくて、観客の方々にたくさんの拍手をいただいて、岡村さんにもあたたかい声をかけていただけて、ようやく「やってきてよかったな、ひとつ結果を出せたかな」と思いました。なにより、僕のデビューに向けて本公演前後にそのままキャスト、スタッフ全員が残って通し稽古に付き合ってくださっていたので、その思いに応えることができたかな、と思えたことは大きかったです。

──プレッシャーはありましたか?
小松:最初の頃は、こんなにも手厚くサポートしていただいているのに、なんで僕はこんなにできないんだろう……と、落ち込んだ瞬間もありました。本当に細かいところまで面倒を見てくださって。果たして、この思いに応えることができるのか、と思ったこともありました。

──殺陣はもちろんですが、ほかに苦労されたことはありますか?
小松:身体の動きのタイミングをカウントで取る、ということをよく理解していなくて、ずっとずれていたんです。

──どういうことでしょう。
小松:僕、最初、123456789……と頭から全部通して数えていたんです。でも、なんか周りとずれてしまって、あるとき「2と7で跳ぶんですよね」と聞いたら、ポカンとされてしまい。
 そうしたら、僕がなにをわかっていないのか、に気付いてくださって「この曲は6単位で数えるんだよ」と教わって。そうか、123456、123456、と数えていけばずれないんだ、と理解したら、できた。ひとつ知らないことがあると全部に影響すると知りました。

──教わる側が「なにがわからないか?」に目線を合わせて教えることができる、という共演者の方々がすてきです。
小松:はい! ほんとうに細かくいろいろなことを教わりました。だからこそ、昨日と今日の公演で「皆さんに恩返ししたい、少しは返せることができたかな」と、最終的にはそう思えたし、思えるまでがんばることができました。

──自身で納得できたことは大きいかと。結果、続けての出演が決まります。
小松:結果が出せたら続投、ということは僕からお願いしました。ただ、実際にお客さまが入り、僕がアラタを演じることで舞台が成立するのかどうか、は初日を迎えてみないとわかりませんでした。だから続投があるかどうか、といったことはまったく考えずにいました。
 でも、すごくうれしかったことがあって。初日終わりに塚田さんがお祝いにお酒を持ってきてくださって、みんなで乾杯したんです。そのときに「飲んだらもう仲間だ! だから、準弥って呼んでいい?」って聞かれて、「はいっ、お願いします!」って……僕は仲間になれたんだ……と。だから続けて出演できることには感謝しかないです。

 

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やると決めたらやる、それしかないから

 

──そもそも、どうしてこの世界を目指したのでしょう。
小松:いろいろ理由はありますが、きっかけを振り返ると、僕は宮城県の生まれで、近くに「石ノ森章太郎ふるさと記念館」があるんです。あるとき、仮面ライダーの藤岡弘、さんがいらしたときに「変身して!」とお願いしたら、変身ポーズをしてくれたんです。
 でも、もちろん変身するわけはなくて「今日は調子が悪いのかな」とか思っていたんですが(笑)、それでもテレビで観ていた人が目の前にいて、変身ポーズをしてくれたことがうれしくて! 子どもながらにテレビに出ている人が実在することを知って「僕も出たい!」と思ったんです。それからもいろんな仕事に憧れましたが、あるとき「それって役者になれば、全部、できるんじゃない?」って気付いて、目指すことを決めました。

──ご家族はなんと?
小松:母はずっと「好きなことをやりなさい」と言って育ててくれたんです。だから、好きな道に進むことが親孝行だと思って、決めました。だから、話すと長くなってしまいますが、これまでに本当にいろんなことがあったけど、諦める、ということは考えませんでした。だって、やろうと決めたら、やるしかないから。

──やはり潔い方です。なにより、決めて動ける、ことが尊(たっと)いです。
小松:ああ……改めて考えると、岡村さんが10日間、20時間という短い稽古でアラタを演じることを求めたのは、僕のそういったところを信じてくれて、限界まで追い詰めて、瞬発力を引き出そうとしてくれたからかもしれません。ノンバーバルの舞台も初めてのことだったので飛び込むしかなかったし。
 でも、実は最初は少し壁にぶつかって、迷い込んでしまいました。キャラクターが存在するわけでもなく、台詞もなく、身体だけで「アラタ」という存在をどう演じたらいいのかわからなくなってしまって。

──どうしたのでしょう。
小松:岡村さんに聞きました。そうしたら、「演じるのではなくて、アラタとしてどう生きるか? を見せてくれ」と言っていただいて。
 そこでわかったんです。僕が思う、アラタでいればいいんだ、と。大切なものを守ろうと戦う武士がいきなり、現代という未知の場所に飛ばされてしまう……それでも怖れない、自分を曲げない、揺らがずに変わらずに在ればいい、と決めました。そうしたら、不思議と迷いが取れたんです。

──確かに、小松さんが演じるアラタはすべてのことに真っ直ぐです。物怖じしないし、危ないと思ったらすぐに刀を抜いてしまう。でも、だからこそ、心配するヒロイン「こころ」と無茶はしないと指切りする場面に、はっとさせられます。そして、千代姫を演じる、同じ事務所所属の吉田美佳子さんとも初共演です。
小松:これもすごくうれしいことでした。僕、実はアラタがおもしろくて、5〜6回、観ているんですけど、最初は美佳子が出ているから応援がてら観に行ったんです。でも観てすぐに圧倒されて「僕もこんな舞台に立ちたい!」と思ってしまって、マネージャーさんに「出たいんです!」と相談したら、あっさり「自分で頼みに行きなさい」と突き放されて(笑)。だったら行くしかないと次は一人で観に行って岡村さんを紹介していただき、頼みに行きました。

──なんと!?
小松:無謀なお願いなのでダメ元だったんですけど、こんな僕の思いを受け止めて出演の機会を作ってくださって、追い込んでくださって、美佳子と共演の機会も作ってもらえて……こんなに幸せなことはないです。

──ここでも、「決めたらやる」を実行されています。
小松:言われてみればそうですね(笑)。でも、だからこそ与えていただいた機会に全力で報いたいと思います。

──最後に一言、お願いします。
小松:たくさんの方々に支えられ、ようやくデビューできました。続投の場も与えていただけたので、この『アラタ〜ALATA〜』という作品をひとりでも多くの方に、そして僕に興味を持ってくださっている方に広く観ていただけたらと願います。
 この記事を通じて、もし少しでも心惹かれたなら、劇場にお越しいただきたいです。殺陣だけでなく、ダンスやワイヤーアクション、映像、歌、それらすべてを使って、全員で一丸となって楽しんでいただけるよう全力を尽くしますので、どうぞ足を運んでください。

 

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 2017年11月19日(日)終演後、劇場にて収録  撮影・取材/おーちようこ

 

小松準弥

こまつ・じゅんや/1993年12月23日生まれ。宮城県出身。取材時23歳。

2013年『FINEBOYS』専属モデルオーディショングランプリ、TOHOKU DREAM AUDITION 2015グランプリ受賞
「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」シリーズへの出演をきっかけに俳優として本格始動。現在は舞台を中心に活躍。

 

写真は通し稽古より。本番終了後、キャスト全員が小松さんデビュー公演初日に向けて残り、場面ごとに細かく確認を繰り返す。そこにあるのは、同じ舞台に立つ者たちの熱。

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『アラタ〜ALATA〜』オルタナティブシアターにて上演中

公式サイト https://www.alternative-theatre.jp/

 ・小松準弥さんの出演は、12/6(水)〜12/10(日)

12月6日は演出の岡村俊一さんとのアフタートーク、7〜10日は小松準弥さんによるお見送りも決定! その後のアラタ役は以下の通り

・早乙女友貴さん 12/13(水)〜12/17(日)
・塚田知紀さん  12/20(水)〜12/23(土)

 

割引になる学生チケット、ペアチケット、トリプルチケットも。
詳しくは公式サイトをご覧ください。

全席指定・税込8,000円
学生4,000円(小学生以上の学生)
ペアチケット10,000円(2名入場可)
トリプルチケット15,000円(3名入場可

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